劣化診断

劣化診断調査及び報告書

建築物は、目に見えないところで日々、劣化が進行しています。

ここでは実際の診断調査を例に取り上げ、鉄筋コンクリート建築物の劣化診断調査について解説します。

目次

第1章建物劣化診断調査の必要性

効果的なメンテナンス工事の実施サイクル
一般的にコンクリート構造物の場合
理想的なメンテナンス工事の実施サイクル
下記のような数値が理想的とされています。
外壁の下地補修・塗装工事/共用部内部下地補修・塗装工事/廊下・バルコニー床面等の防水工事/各シーリング材の補修工事
9~13年周期
鉄部の素地調整及び塗装工事
3年~5年周期
上記のサイクルを遵守する。
適切な時期に適切なメンテナンス工事を実施する。
メンテナンス工事実施の本来の目的を効果的にする。
コストダウン・工期の短縮等が可能である。
メンテナンス工事実施の目的
・「美観の向上:より美しく」…意匠性の向上、リフレッシュ感の向上
・「耐良性拍向上:より頑強に」・・・劣化した下地・塗膜への耐久性の付与
・「安全面の確保:より安全に」…劣化したコンクリートや下地調整材の脱落防止
・「資産価値の向上:より価値のある、より快適な建物に」
以上のようなことである。
予算を最大限に「有効活用」し、上記のような目的を実現することである。

建物劣化のメカニズム
竣工当初は美しく、頑強であったコンクリート構造物も雨風や紫外線の照射・排気ガス等の様々な複合的影響を受ける。
時間の経過とともにコンクリート下地・塗膜の状態が大きく変化してゆく。
このような現実は避けることができない。
「建物全体に汚れを帯びてきた」「建物の随所に亀裂が目立ち始めた」「鉄部の随所に錆が目立ち始めた」等々の発生が「劣化」である。
皆様の気になられるような現象の殆どは不可抗力的に発生する。
これが「劣化」である。
問題点は不可抗力的に発生した汚染・亀裂や錆等の劣化を放置し続けることである。
劣化を放置すると、さらに下地の内部に雨や炭酸ガスが侵入し、竣工後7~8年を経過したころから躯体そのものに影響を与えかねない。
「重傷レベル」の劣化

建物劣化診断調査の必要性
前記のような「重傷レベル」の劣化は建物自身の寿命を著しく縮める。
資産価値を大きく下落させる。
高層部からのコンクリート片の脱落に伴う第三者傷害事故・車両等への破損事故を誘発する危険性さえあります。
「重傷レベル」の劣化現象を放置し続けると、
劣化は目には見えない範囲までをも含めて加速度的に進行する。
劣化箇所が多発した後では莫大な費用がかかる。
長期にわたる工事期間を費やした割には期待通りの結果が得られない。
といったことさえもあり得ます。
誤った工法や材料を選択しての工事を実施すれば、取返しのつかない結果を生じる可能性がある。
ゆえに、劣化・疲れの見え始めたコンクリート構造物に対して、
効果的な本当に価値のある改修工事を実現するためには、
専門家の目から見た、あるいは各種検査機器を用いての建物の健康状態把握である「建物劣化診断調査」は必要である。
そこから得られたデータを基に、状態に応じた適切な処置(適切な材料選定・適切な工事内容)を決定するのに大切なことである。
大規模改修工事実施計画立案の作成が運営上の重要項目となる。

調査に前もって準備するもの
建物設計図書
現状のマンションの各種仕上材・下地材
どのような状態にあるのか、各部分の目視の結果一覧表

 

第2章建物概要

1.物件名称:○○○○
2.所在地:京都市・・・
3.構造:鉄筋コンクリート造
4.規模:地上○階建
5.戸数:○○戸
6.竣工:19○○年○月
7.設計・監理:○○建築設計事務所
8・施工:○○工務店
9・事業主:○○会社
10・用途地域:○○地域
11.地目:宅地
12.敷地面積:○○○m2(実測)、×××m2(公募)
13.建築延面積:○○○○m2(建築確認申請図書による)
14.建築面積:○○○○m2(建築確認申請図書による)
15.建蔽率:○○%
16.容積率:○○○%(道路○○%)
17.周辺環境:付近見取図参照
18.建物履歴
19.現在の仕上表

具体的事例
一般的なコンクリート構造物(マンション)
汚染、劣化させる外的要因
自動車の排気ガス、雨風、紫外線の照射、工場からの煤煙、地盤の振動、加えて藻やカビ等菌類の繁殖等。
建物の劣化
その建物を取り巻く周辺環境には密接な関係があります。
「対象物件」を取り巻く周辺環境
・屋上~上層階においては雨風及び紫外線の直射を受けやすいものと考えられる。
・街中に位置しており、自動車の往来に伴う振動や排気ガスに含まれる炭酸ガスの躯体への影響が示唆される。
上記のようなことが考えられます。
結論として、当物件をとりまく周辺環境は「比較的穏厳しい環境下」にあるものと考える。

18.付近見取図1/2500(白図)

19.対象物件各部位仕上表

 

第3章診断調査実施項目

1.診断調査会社
○○一級建築士事務所
*診断調査協力メーカー:○○
*診断調査協力メーカー:○○

2.診断調査実施日時
平成○○年○月○日(曜日)
平成○○年○月○日(曜日)

3.診断調査実施範囲
屋上周辺部(屋上塔屋・屋上防水等)
一般外壁面全般(海がかり部及び非雨がかり部の壁面等)
各天井面(共用廊下及びバルコニー天井・外部階段上裏等)
各床面(共用廊下及びバルコニー床面・外部階段床面等)
各鉄部塗装部材(雨がかり部及び非雨がかり部の各部材)
その他の各部材(ドレンパイプ・シーリング等)
セットバック部タイル面

4.診断調査実施内容
目視診断調査
各仕上材及び下地の各部位別の劣化状態確認
打音診断調査(打診棒使用)
下地コンクリートと下地調整材間との肌別れ状態(浮き確認)
触指診断調査
塗膜の撥水機能状態(チョーキング)確認
塗膜付着強度測定試験(建研式簡易引張り試験機使用)
建研式簡易型引張り試験機による下地と塗膜の付着強度の測定
コンクリート中性化深度測定試験
(コア抜きドリル・フェノールフタレイン溶液使用)
既設外壁タイル付着強度測定試験

 

第4章各種試験

1.塗膜付着強度測定試験
試験実施目的
竣工(改修)時には、下地コンクリート面(及び旧塗膜)に強固に付着していた各種の仕上塗材や下地表面調整材も永年の雨風や紫外線の照射の影響により、各塗材を構成する樹脂が少しづつ劣化し、美観や撥水及び防水機能の低下状態を経て、最終的には塗膜の下地への接着機能さえ消失していきます。
そのままの状態で放置を続けることにより、経時的な下地の劣化も拍車をかけ、各種塗材の広範囲にわたる塗膜の死活化という最悪の状態にまで達してしまうことがあります。
今後、大規模改修工事の実施を御検討して頂くに当たり「○○マンション」の現状の塗膜は付着強度・破断面などからどのようになっているのかを判断し、大規模改修工事実施の際に反映して頂くことを目的として実施します。
塗膜付着試験強度測定試験実施機器

試験方法
測定試験箇所(塗装面)に4×4cm2の表面積の鋼製アタッチメントを速乾性のエポキシ系接着剤で面接着になるように確実に取り付けます。
接着剤が完全に硬化した後にアタッチメントが測定面から破断するまで、建研式簡易型引張り試験機にて油圧をかけ続けます。
アタッチメントが測定面から破断した際に、試験機の針が示した数値をアタッチメントの表面積(16cm2)で割り、1cm2当りの下地に対する付着強度を得ます。

2.外壁既設タイル付着強度測定試験
試験実施目的
本試験は外壁補修工事を行うにあたり、現状浮きの発生していない既設タイルの接着力を確認することを目的とする。
外壁既設タイル付着強度測定試験実施機器



試験方法
油圧式簡易引張試験機を使用
試験器;○○製/テクノスター
デジタル表示の単位は「KN」であるため、「N」への換算式は以下の通りである。
1KN=1000N
S;アタッチメントの面積
計算例
測定値1.85kN
1.85×1000÷1600(試験体タイルの面積)=1.16N/mm2
1N/mm2=10.2Kgf/cm2
使用材料
アタッチメント取付用接着剤・・・・・・・・・・・・・・・・○○製
引張試験機;テクノスター・・・・・・・・・・・・・・・・・○○製

3.コンクリート中性化深度測定試験
試験実施目的
コンクリート構造物は新築時の打設直後は、強いアルカリ性を有しており、このアルカリ成分が躯体内部の鉄筋層を錆・腐食から保護しています。
しかしながら、建物が永年の雨風などの外部環境に晒される状況において、下地コンクリートのアルカリ性は主に空気中の炭酸ガスの影響で表面から徐々にアルカリ成分を失い(=中性化)、その防食機能は低下していきます。
中性化深度が進行し、内部鉄筋層に達すると、さらに水分などの影響を受けて、内部鉄筋層はアルカリ成分の保護がないため発錆、ひいては腐食し、体積膨張による周辺コンクリートの破壊にまで及んでしまうことがあります。
この現象を一般的に「曝裂」と称します。
将来的に、この「曝裂」現象を招く恐れのある躯体コンクリートの中性化が表層からどれだけ進行しているかを判断し、大規模改修工事に反映して頂くことを目的として実施します。
コンクリート中性化深度測定試験機器



試験方法
躯体表面から10~20mm程のサンプルをコア抜きドリルにより抜き取って採取します。
採取したサンプルに1%に希釈したフェノールフタレイン溶液(アルコール溶液)を噴霧します。
フェノールフタレイン溶液は無色透明ですが、アルカリ性に反応して赤変します。
赤変した部分は正常な状態、無色透明の部分は中性化箇所と判断されます。
無色透明の部分(=中性化箇所)が躯体表層から何mm進行しているかをノギスにて測定します。
中性化深度標準値算定方法
一般的に使用されるコンクリート下地中性化深度の測定式は以下の通りです。
t=7.2X2(t:竣工後経過年数、X:中性化の深度〔cm2〕)
この数式に当物件の竣工後経過年数を当てはめると…
約13.25年=7.2X2=約1.35cm2(約13.5mm)
上記の数値はコンクリート打ち放し面(無塗装)状態での想定であるため、仕上塗材により、リシン状塗材の場合であるならば0.7を、スタッコ状及び吹付タイル状塗材や弾性塗材等であるならば0.4の数値をかけることになります。
なお、本物件の場合、試験実施箇所の外壁面は「吹付タイル」にて仕上げられておりますので、0.4をかけることとなります。
約13.5mm×0.4=「約5.4mm」
よって「約5.4mm」が当物件の中性化深度の計算上理論標準数値となります。

第4章各試験結果
1.塗膜付着強度測定試験
1)判断基準
測定試験箇所でJIS規定の標準値である「7kgf/cm2(112kgf/16cm2)」以上の数値が得られれば現状塗膜と下地との層間付着強度は良好であると判断されます。
その場合には、部分的な劣化塗膜、浮きや剥離箇所等を除去するだけで、殆どの場合は現状の塗膜の上から新たな塗装を施すことが可能であると考えられます。

2).試験実施結果

3)結果について
塗膜付着強度測定試験の実施結果については前貢の表の通りとなり、全ての測定個所において基準値である「7kgf/cm2(112kgf/16cm2)」を上回る充分な付着強度であることが判明しました。
従って、塗膜付着強度測定試験の実施結果から、現時点においては大規模改修工事実施の際においても、部分的な脆弱塗膜(密着不良・浮き・剥離の発生箇所)を除去すれば、全体的には上からの塗り重ねが可能と判断されます。
しかしながら、現在、躯体の随所に散見される問題のある亀裂等の劣化発生箇所から躯体内部、あるいは塗膜内部に雨水が侵入して、塗膜の付着強度を低下させ、放置を続けたならば、やがては部分的な密着不良・浮き・剥離等が全般に広がるようになることも示唆されます。
よって、経時的に塗膜の撥水機能・躯体保護機能が著しく低下する以前、概ね下地との付着強度が確保されている状態のうちに現状塗膜の上から塗装を施し、下地及び塗膜の保護、美観の向上を図って頂くことが得策であると考えられます。
*脆弱な塗膜の上から塗装を施すと「塗膜の膨れ」や「剥離」の要因となり得ますので、大規模改修工事実施の際には、足場架設時において再度入念なチェック(目視・打音診断調査等)を行い、脆弱な箇所については完全に撤去する必要があります。

4)破断状態

2.外壁既設タイル付着強度測定試験
1)判定基準
国土交通省大臣官房官庁営繕部監修の『平成13年度版建築工事共通仕様書』の第11章・タイル工事で規定されている陶磁器質タイル張りの引張接着強度0.4N/mm2以上であれば合格の判定とする。
2)試験実施結果

1N/mm2=10.2kgf/cm2

3)結果について
No.1においては、引張接着強度が規格値を大きく下まわっている上、破壊箇所が張付けモルタルとタイル裏足の界面破壊となっている。
ここで着目する点としては、破壊した面の張付けモルタルが、施工時に行うクシ目ゴテを用いて出来たと思われるクシ目の山が、残ったままであることである。
また、No.2、3においては、引張接着強度がそれぞれ規格値を満たしており、破壊箇所も張付けモルタルの材料破壊である為、問題ないものと判断いたします。

3.コンクリート中性化深度測定試験
1)判断基準
本物件の築後経過年数と現状塗膜の状態から、計算上の理論数値は、一般的に「約5.4mm」が経年相当程度の中性化深度と考えられ(次項6.中性化深度標準値算定方法参照)、これ以下の数値が得られればコンクリートの中性化は進んでおらず、良好と判断されます。

2)試験実施結果

3)結果について
結果については上記の通りとなり、測定箇所はいずれ5箇所とも大気との接触、雨風及び紫外線照射の厳しい条件下に晒され続けることとなる部位にて測定しました。
試験の結果については、面によってまちまちの数値を得ることとなりましたが、中性化の進行は槻ね経年相当程度~以上に進行しているものと捉えられます。
今後において、放置を続けたならば、躯体の随所に見受けられる亀裂等の劣化発生箇所から躯体内部~鉄筋層にまで水を侵入させて、あるいは不可抗力的な中性化の進行により、内部鉄筋層の発錆~腐食に伴い曝裂を多発させることも予想され得ります。
よって、今後へ向けて、大規模改修工事実施の際には、事前防止策の意味を含め、不可抗力的に進行する中性化を抑制、緩和させうる仕様を設定し、防水性及びガスバリア性に優れた塗材を塗付し、躯体を保護することが求められるべきと考えます。

4)中性化深度標準値算定方法
現在、一般的に使用されるコンクリート下地中性化深度の測定式は以下の通りです。
t=7.2X2(t:竣工後経過年数、X:中性化の深度〔cm2〕)
この数式に当物件の竣工後経過年数を当てはめると…
約13.25年=7.2X2=約1.35cm2(約13.5mm)
上記の数値はコンクリート打ち放し面(無塗装)状態での想定であるため、仕上塗材により、リシン状塗材の場合であるならば0.7を、スタッコ状及び吹付タイル状塗材や弾性塗材等であるならば0.4の数値をかけることになります。なお、本物件の場合、試験実施箇所の外壁面は「吹付タイル」にて仕上げられておりますので、0.4をかけることとなります。
約13.5mm×0.4=「約5.4mm」
よって「約5.4mm」が当物件の中性化深度の計算上理論標準数値となります。

 

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