自然風の利用
◆自然風利用技術の検討ステップ
◆手法1 直接的な自然風取り込み手法
◆手法2 間接的な自然風取り込み手法―――ウィンドキャッチャーの利用
◆手法3 屋根面を利用した自然風取り込み手法
◆手法4 温度差換気の利用手法―――排気用開口部の設置
◆手法5 室内通風性能向上手法
◆手法6 防犯・騒音への配慮
目的とポイント
・自然風の利用は、夏期夜間や中間期などに、通風という形で外気を取り入れ、冷房エネルギーの消費と快適性の向上を図る技術です。
・卓越風(局地風)を取り込むことを重視します。
卓越風とは、建物が建設される地域や周辺環境に対し、ある期間を通じて頻繁に吹く風向特性のある風のことです。
同じ地域でも季節により変化するので、利用を想定する時期の卓越風の方向を確認しなければなりません。
・建物の形状やプラン、外構計画を工夫する方法と、開口部の位置、形状、開閉操作を工夫する必要があります。
・しかし、開口部を設けることで、防犯や騒音などが問題となる場合も多いので、注意しなければなりません。
・開口部の開閉を促すしくみの併せて考えなければなりません。
目標レベルを達成するためのパラメータ
1.夜間の換気回数 10回/h程度
室温より低温の外気の流入による冷却効果が主であり、気流感が得られる領域は限られます。蒸暑期の夜間就寝時に適度な換気回数で、体が冷えすぎるリスクは少なくなります。
2.昼間の換気回数 10~100回/h
住宅内に空気の通り道ができ、部分的に気流速度が大きくなります。それにより、人体表面が冷やされ爽快感を得ることができます。
*換気回数*
室内の空気が1時間に何回外気と入れ替わるかを表した数値です。換気量を室内の容積で割った数値で、単位は回/時間(h)となります。
自然風利用技術の検討ステップ
ステップ1 立地条件の確認
(1)
自然風利用の可能性を確認
(2)
利用可能性大・中(立地2、3)
→地域の気象データをもとに、卓越風と通風利用期間の確認
局地風に関係する地形の確認
(3)
利用可能性小(立地1)
→温度差換気の積極的活用
ステップ2 直接的な自然風の取り込み(手法1):立地3
(1)
配置・平面計画の可能性の検討
(2)
開口部計画
(3)
室内通風経路の計画
ステップ3 間接的な自然風の取り込み(手法2):立地2、3
(1)
配置・平面計画の可能性の検討
(2)
開口部計画
(3)
室内通風経路の計画
ステップ4 屋根面を利用した自然風の取り込み(手法3):立地2、3
(1)
屋根面利用可能性の検討(勾配・方位)
(2)
排気口・廃棄用開口部と給気用開口部の計画
(3)
室内通風経路の計画
ステップ5 温度差換気の利用(手法4):立地1
(1)
排気用開口部と給気用開口部の計画
(2)
室内通風経路の計画
ステップ6 室内通風性能の向上(手法5)
(1)
開口部付属物の計画
(2)
内部建具計画
(3)
その他の具体的対応方策の検討
ステップ7 防犯・騒音への配慮(手法6)
(1)
各開口部に要求される騒音および防犯対策のレベルの検討
(2)
各開口部の開閉方式の検討
(3)
その他の具体的対応方策の検討
手法1 直接的な自然風取り込み手法
敷地条件の確認と建物の配置計画
・卓越風の方向を確認し、壁面、屋根面の風圧力差を検討します。
・風圧力差の大きい2ヶ所以上に、通風に有効な開口部を配置します。
卓越風を意識した平面計画・開口部計画
通風を確保したい部屋を風上側に計画する
こうすることで、外気に近い温度の気流が室内を流れるので、冷却効果が増します。
また、風は通ってきたところの熱の影響を受けるので、風上に植栽や池を配置すると、アスファルトの上を通ってきた風に比べて温度が下がります。
適切な開口面積を確保できるような開口部計画を行う
開口面積と通風量
・開口部が大きくなると通風量も増えますが、風の入口と出口の大きさの関係によって、通風の質は異なってきます。
・風上側の開口部を小さくした場合には、流入速度が増すことになり、強い冷涼感を得ることができます。
しかし、この開口部近くにベッドを配置すると、気流が直接吹き付けて体調を崩す場合があるので、注意しましょう。
・風下側の開口部を小さくした場合には、流入速度は低下しますが、通風が影響する室内の領域は大きくなるので、全体にやわらかい風を得ることができます。
・大きい開口部を1つ確保する場合と、同等の面積を複数の開口部で確保する場合には、効果に大きな差はありません。
・プライバシーや防犯、日照などに配慮しなければなりません。
手法2 間接的な自然風取り込み手法―――ウィンドキャッチャーの利用
サンルームや出窓の設置
卓越風が流れていく壁面にサンルームや出窓などを設置し、風上側の面に開口部を設けると、その部分がウィンドキャッチャーとなります。
両側に開口部を設け、風向きによって風上面の開口を開放、風下面の開口を閉鎖することにより、多くの方向から風を呼び込むことができます。
フェンス、植栽、袖壁などの設置
これらの設置によって風圧力を高め、直接取り込めない風を呼び込むことができます。
この場合、これらの高さと幅は、設置する開口部と同等以上とする必要があります。
手法3 屋根面を利用した自然風取り込み手法
天窓等の設置(緩勾配の屋根の場合)
屋根面の風圧係数が負になる部分に天窓等を設けて、通風を確保します。
屋根面に十分な風が当たる場合には、屋根面に生じる吸い出しの力(負圧)を利用すれば、効率的に外気が取り入れられます。
屋根勾配が0°~20°程度の場合、屋根面全体が負圧となります。
負圧が生じない場合は、卓越風方向に面する屋根面にドーマ窓などを設け、できるだけ高い位置に開口部を確保して、温度差換気を検討することが有効です。
頂側窓等の設置(3寸勾配以上の屋根の場合)
勾配が3寸程度以上の場合には、棟の風下側に負圧となる部分が存在します。
この部分に頂側窓等を設けて、通風を確保します。
手法4 温度差換気の利用手法―――排気用開口部の設置
外気温が室内より低い場合、開口部の上部から暖められた室内空気が排出され、下部から外気が流入して建物を冷却します。
この場合、間取りを開放的にし、流入した外気が各室に行き渡るようにすることが大切です。
排気用窓の設置
屋根面のトップライトや頂側窓を利用して、温度差換気を行うことができます。
高所の窓と低所の窓を組み合わせて用いる方法と、高所の大きな窓のみを用いる方法があります。
前者の場合、開口部の高低差を大きくした方が、より大きな換気量を期待できます。
排気塔の設置
排気塔は防犯上有利ですが、雨対策などが必要です。
1と同様、開口部の高低差を大きくした方が、より大きな換気量を期待できます。
手法5 室内通風性能向上手法
開口部付属物の計画
付属物の影響を認識し、開口部計画に反映させることが必要です。
気温が高い昼間に網戸のみとして多くの風を取り込み、夜間に網戸とブラインドシャッターとすることは、防犯やプライバシーへの配慮の面からも合理的です。
また、カーテンなどが網戸に密着すると通風を大きく妨げるので、注意が必要です。
内部建具計画
風の通り道を確保するために、できるだけ開放的な間取りとし、内部建具を工夫しなければなりません。
引戸
引戸は、開放時にも通行等の邪魔にならず、開放寸法を任意に調節できるので、通風に対して有効です。
さらに、高さを天井一杯に高くすることで、動く間仕切り壁のようなしつらえができます。
欄干
欄干は、視覚的な区画を明示しながら、空気の流れを確保できる優れた手法です。
格子戸
格子戸は、格子の設定間隔によっては、視線をある程度制御し、かつ通風に対して有効なものとなります。
格子戸と風を通さない板戸等による引戸と組み合わせることにより、冬期の暖房負荷の低減と夏期の積極的な通風確保を両立できます。
開口付き扉
廊下や水まわりなど、引戸を採用できず、かつ扉を開放した状態を保つことが難しい場合、扉自体に開閉可能な開口を付けることも有効です。
ドアストッパー
開き戸を設置する場合、ドアストッパーを設置することで、通風のための開放状態を保つことが可能になります。
手法6 防犯・騒音への配慮
セキュリティーへの対応
通風時にも防犯性能が確保できる窓(夜間開放可能窓)の選定が必要です。
窓の防犯性能は、サッシの構造(開閉方式、施錠機構、窓サイズ等)、ガラスの種類、シャッターや面格子等の併用によって大きく異なります。
セキュリティーシステムや防犯グッズなどを組み合わせたり、防犯に配慮した外構計画にするなど、計画全体で確保することも必要になります。
忍び込み犯対策に有効な窓は、開放ストッパー付き窓、面格子付き窓、通風雨戸や通風シャッター付き窓等です。
破壊侵入犯対策に有効な窓は、防犯面格子付き窓、細幅窓等です。
外部騒音への対応
騒音レベルは、発生源に面しているかどうかでその大きさが異なります。
初めから騒音源が明らかな場合は、それに面する開口部を小さくしたり、遮音性能の高い建具を使うことが有効です。
開き窓では、騒音源と反対の方向(静かな方向)に開放するような開き勝手にすると、より遮音効果が得られます。
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